リハビリテーションの現場において、FIM(機能的自立度評価)の「更衣(下衣)」は、動作の工程が多く、介助量の見積もりが難しい項目の一つです。特に「ズボンの引き上げはできるが、足を通すのが大変」「オムツを履いている場合はどうなるのか」といった疑問に加え、上衣と同様に「病衣」の扱いが採点を大きく左右します。
現場では「本人が頑張って履いているから」という主観的な評価になりがちですが、FIMはあくまで「社会復帰に向けた実用的な評価」です。正しいルールを知らなければ、リハビリの成果が点数に反映されないばかりか、誤った評価を多職種に共有してしまうことになりかねません。
今回は、更衣(下衣)項目の正しい評価方法を徹底解説します。
Contents
1. 【最重要】評価対象となる衣類の定義と「病衣」のルール
FIMにおける更衣(下衣)は、「ウエストより下の衣類」の着脱を評価します。対象となるのは、ズボン、スカート、下着、靴下、靴、そして装具(下肢装具など)です。
ここで上衣と同様に注意すべきなのが、「病衣(入院患者用の衣類)」の扱いです。
- 評価対象: 一般的なズボン、スラックス、布のパンツ、パジャマの下など。
- 評価対象外(1点扱い): 入院患者用の衣類、紐で結ぶタイプの病衣。
FIMは「退院後の社会生活」を想定した指標です。外出時や自宅で履くようなズボンではなく、外出に適さない衣類を着用している期間は、本人の能力に関わらず、社会的な更衣ができているとはみなされず「1点(全介助)」と採点されます。自立度を正しく評価するには、早期にジャージやトレーニングパンツなどの「普通のズボン」へ切り替えることがスタートラインとなります。
2. 更衣(下衣)を構成する3つの動作
介助率を正確に算出するために、動作を以下の3工程に分解して考えます。各工程を約33%ずつとして計算します。
- 足を通す:ズボンに片足ずつを通す動作(左右セット)。靴下や靴の着脱もここに含まれます。
- 引き上げる:膝から腰までズボンを引き上げる動作。
- 留め具の操作:ファスナーを上げる、ボタンを留める、ベルトを締める動作。
3. 採点基準の早見表(6点〜5点の境界線)
現場で迷いやすい5点(準備・監視)と6点(修正自立)の判断基準を整理します。
| 状況 | 点数 | 判定の根拠 |
|---|---|---|
| 自助具(ソックスエイド等)を使用 | 6点 | 道具を使えば一人で完結できる(時間はかかってもよい)。 |
| 下肢装具の着脱を自力で行う | 6点 | 装具を「特殊な道具」とみなし、自力でできていれば修正自立。 |
| 物品の準備(ズボンを広げる等) | 5点 | 前後を確認して渡す、足を通しやすいように裾を広げて持つ。 |
| 監視・声掛け | 5点 | 身体接触はないが、転倒防止のための構えや手順の促しが必要。 |
| 最小介助(接触あり) | 4点 | 立ち上がる時に軽く支える、あるいは靴下だけ履かせる。 |
| 病衣・寝間着(和式)を常用 | 1点 | 衣類そのものが評価対象外。実生活での「している活動」として1点。 |
4. FAQを踏まえた臨床的観察ポイント
「オムツ」の扱いはどうなる?
非常によくある質問が、オムツの扱いです。FIMにおいてオムツは「下着」の代わりとみなされます。したがって、オムツの着脱をスタッフが行っていれば、それは「更衣(下衣)」の介助としてカウントされます。下着(オムツ)をスタッフが履かせ、ズボンの引き上げを本人が行っている場合、工程の半分を介助していることになり、3点(中等度介助)程度の評価となります。
「靴下・靴」を履かない場合は?
「病棟内では裸足で過ごしている」「靴は履きっぱなし」という場合、その項目を評価から除外することはできません。FIMはあくまで標準的な更衣を評価するため、靴下や靴の着脱が必要な場面(リハビリ室への移動時など)での実態を確認し、介助があればそれを全体の介助率に反映させます。
装具の着脱(膝装具・短下肢装具など)
日常的に装具を使用している患者様の場合、その着脱も更衣(下衣)の範囲に含まれます。ズボンの着脱が自立していても、装具の装着に全介助を要していれば、3動作のうち1つ(33%)が介助となるため、全体では4点〜3点(75%未満の自力)へと点数が下がります。
5. チームアプローチ提案:自立へのステップ
リハビリテーション専門職として、更衣の質を向上させるための提案です。
- 家族への衣類相談: 「リハビリ効果を生活に繋げるため、普段履いているズボンや、ウエストがゴムの履きやすいパンツを準備してください」と依頼します。
- 病棟での環境設定: 立位が不安定でズボンの引き上げに介助が必要な場合、ベッドサイドに手すりを設置したり、座ったまま引き上げられる動作手順を看護・介護職と共有します。
- 自助具の導入: 靴下が履けないことが自立を妨げているなら、ソックエイドの練習を導入し、5点(準備)や6点(修正自立)へのステップアップを図ります。
6. まとめ
更衣(下衣)の評価は、まず「適切な衣類(普通のズボン等)を選択しているか」という前提条件を確認することから始まります。その上で、「足を通す」「引き上げる」「留める」という3つの工程を冷静に分析し、介助率を算出します。
FAQを参考に、オムツや装具といった現場ならではの要素を正しく点数に反映させることで、患者様の現在の能力と課題が明確になります。数字を正しくつけることは、ゴール設定を正しくすることに繋がります。明日からの介入では、ぜひ「どの衣類で、どの工程に介助が必要か」を多職種で再確認してみてください。

