FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)採点完全ガイド|「手を添えただけ」は何点?5点と4点の境界線を徹底解説

transfer-wheelchair FIM判定基準

FIM移乗項目は、運動項目のなかでも特に点数がぶれやすい領域です。リハビリ室では手すりなしで軽々と立ち上がる患者様が、夜間の病棟ではナースコールで介助を要請している——こうした「場面差」をどう点数に落とし込むかで、評価者によって1〜2点の差が生まれてしまいます。

特に多いのが、「立ち上がりで腰に手を添えただけだから5点かな」「ブレーキだけ毎回かけてあげているけれど7点でいい?」といった、5点と4点、6点と5点の境界で迷うケースです。

今回は、FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)の採点ルールと、臨床現場での具体的な判断基準を詳しく解説します。

1. 移乗動作の評価対象となる「3つの場面」と動作の分解

FIMの「移乗(ベッド・椅子・車椅子)」では、以下の3つの場面のうち、実際に行っている動作を評価します。

  1. ベッドへの移乗
  2. 椅子への移乗
  3. 車椅子への移乗

これら3つのうち、普段行っているものを採点対象とし、複数行っている場合は最も介助量の多い場面を採用します。例えば、昼間は自力で車椅子に移乗できても、夜間のベッド移乗に介助が入っているなら、夜間の状態を点数に反映させます。

動作の分解:「起き上がり」と「移る動作」

移乗を正確に採点するには、動作を以下の2つに分解して観察することが有効です。

動作要素観察範囲主な介助パターン
起き上がり臥位 → 端座位までベッド柵の使用、介護ベッドの操作、上半身の引き起こし
移る動作立ち上がり → 方向転換 → 着座手すり把持、軸足の方向転換、臀部の引き上げ

どちらか一方でも介助が入っていれば、「完全自立」ではなくなります。評価の際は、この2つを別々に観察してから総合点を決める流れが実務的です。

2. 7点(完全自立)と6点(修正自立)の境界線

7点と6点の違いは、「介助者の有無」ではなく、補助具・時間・安全性の3要素で判断します。

状況判定理由・条件
補助具なしで通常時間内に完遂7点手すり・柵・移乗ボードをいずれも使用しない場合。
ベッド柵・手すりを使用6点掴まれるものがあって初めて立ち上がれる・方向転換できる場合。
車椅子のブレーキ・フットレスト操作を自力で実施7点操作自体が自立していれば減点対象にはなりません。
通常の3倍以上の時間を要する6点動作は完遂できるが、著しく時間がかかる場合。
安全性への配慮が必要6点転倒リスクがあり、慎重に動作を行っている場合。

「手すりに触れているだけ」は6点

「軽く触れているだけで、体重はかけていないから7点でいいのでは」という疑問をよく耳にします。FIMのルールでは、補助具に触れている時点で「使用している」と判断します。触れる必要のない環境でも同じ動作ができるかを想像してみてください。できないのであれば、6点が妥当な採点です。

3. 5点(準備・監視)と4点(最小介助)の決定的な違い

移乗評価で最も迷いやすいのがここです。両者の境界は、身体接触の有無と介助量が全体の25%を超えるかどうかにあります。

状況判定介助の性質
声かけ・指示のみ(接触なし)5点「いきますよ」「もう少し深く座って」といった指示。
ブレーキ・フットレスト操作を代行5点動作そのものではなく、前後の準備を手伝う場合。
転倒に備えて傍らに立つ(接触なし)5点バランスを崩したときに備える見守り。
立ち上がり時に腰へ軽く手を添える4点力は入れていなくても、接触した時点で最小介助以下。
方向転換時に肘を支える4点25%以下の身体接触を伴う介助。

「手を添えているだけ」は5点ではない

この誤解が、評価のズレを生む最大の原因です。FIMでは、身体接触を伴った時点で5点は適用できません。力の入り具合に関わらず、「触れた」という事実が4点以下の領域に入る判定基準となります。

逆に、声かけを10回繰り返していても、身体に一切触れていないなら5点です。「声かけ」と「接触」の間に、明確な壁があると覚えておきましょう。

4. 介助率の計算方法:動作分解とパーセンテージ

移乗は「起き上がり」と「移る動作」の介助量を合算し、患者様が自力で行った割合で採点します。本ツールでは、両動作の重み付け(起き上がり40%、移る動作60%)で加重平均を算出しています。

  • 75%以上(ほぼ自力):4点(最小介助)
  • 50〜74%(半分以上自力):3点(中等度介助)
  • 25〜49%(一部自力):2点(最大介助)
  • 25%未満(ほぼ介助):1点(全介助)

臨床的な計算の例

右片麻痺の患者様のケースで考えてみます。

  • 起き上がり:ベッド柵を非麻痺側で把持して自力でできている(重みづけ40%、自立度100%)
  • 移る動作:立ち上がり時にセラピストが臀部を軽く引き上げている (重みづけ60% 、自立度50%)

加重平均を計算すると、0.4×1.0 + 0.6×0.5 = 0.4 + 0.3 = 0.7 となります。自立度は70%で、50%〜75%の範囲なので3点(中等度介助)と判定されます。

また、手すりを使用していても起き上がりが6点(修正自立)扱いになるのは、あくまで動作を自力で完遂できる場合に限ります。手すりを使いつつ引き上げ介助も必要なら、加重評価の結果がそのまま総合点となります。

2人介助・リフト使用の扱い

介助者が2名必要な場合、または天井走行リフト・スタンディングリフトを使用している場合は、原則として1点(全介助)です。患者様の自力参加がどれだけあっても、介助者が2名必要な時点で1点というルールは覚えておきましょう。

5. 臨床的観察ポイント

採点の精度を上げるには、以下の視点を意識すると良いでしょう。

日中と夜間の差を必ず確認する

FIMの原則として、「日中・夜間で能力が異なる場合は、低い方の点数を採用する」というルールがあります。リハビリ室でのパフォーマンスだけを見て7点と判定すると、夜勤帯での実態と乖離した評価になりかねません。夜勤看護師への聞き取りは、移乗評価の必須プロセスと考えてください。

高次脳機能障害の影響を見逃さない

半側空間無視のある患者様では、無視側のフットレストの跳ね上げ操作を忘れて転倒リスクが上がるケースがあります。動作自体が自立していても、毎回フットレストをスタッフが跳ね上げているなら、それは「準備=5点」の領域に該当します。

6. チームアプローチ:移乗を自立に導く工夫

FIMの点数は、単なる現状評価で終わらせず、具体的な介入提案に繋げることで臨床的な価値が生まれます。

  • 看護・介護職への伝達:「ブレーキ操作を患者様自身にしてもらうことで、準備動作の自立を促せます」といった具体的な行動指針を共有します。過剰介助を防ぐことが、点数上昇の第一歩です。
  • 補助具の検討:立ち上がり時の引き上げ介助をなくすために、高さ調整可能なベッドや、L字柵、ベッド用手すりの導入を検討します。4点から5点への引き上げには、環境調整が有効です。
  • 病棟ADLとの連携:リハビリ室での練習内容を病棟スタッフに動画で共有し、同一の介助方法・誘導ルートで統一することで、病棟でのADL低下防止に繋がります。
  • 夜間の評価共有:夜勤帯の介助量を週次でレビューし、日中の訓練に反映させる仕組みを整えると、評価と介入のサイクルが機能しやすくなります。

7. まとめ

FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)の評価は、「起き上がり」と「移る動作」の2つに分解し、日中と夜間の両方を観察することで、採点のブレを大幅に減らせます。

特に、「手を添えた時点で4点以下」「2人介助は1点」「補助具使用で最高6点」という3つのルールを押さえておけば、現場での迷いは少なくなるはずです。FIMは「しているADL」を評価する指標である以上、最も介助量が多い場面を拾い上げる姿勢が、精度の高い評価と効果的な介入計画の出発点となります。

明日のラウンドでは、患者様の移乗動作を「起き上がり」と「移る動作」に分解して、それぞれの介助量を数値化してみてください。見えてくる課題が、きっと変わるはずです。