FIM更衣(上衣)評価の完全ガイド|「病衣」の落とし穴と介助率計算の極意

dressing FIM判定基準

リハビリテーションの現場において、FIMの「更衣(上衣)」は毎日評価される項目ですが、実は「何を着ているか」という前提条件で採点が大きく変わる、非常にシビアな項目です。

特に、多くの病院で日常的に使用されている「病衣(入院患者用の衣類)」や「オペ着(袖や脇の部分でセパレートできるタイプ)」は、実はFIMの評価対象外となり、問答無用で「1点(全介助)」扱いになるという大原則をご存知でしょうか。

今回は、この見落としがちなルールや更衣(上衣)項目の正しい評価方法を徹底解説します。

1. 【最重要】評価対象となる衣類の定義

FIMにおける更衣(上衣)は、「外出しても不自然でない衣類」の着脱を評価します。

  • 評価対象: シャツ、ブラウス、Tシャツ、セーターなど。
  • 評価対象外(1点扱い): 病衣(入院患者用の衣類)、紐で結ぶ寝間着、ガウン。

なぜ病衣が1点になるのか。それは、FIMが「退院後の社会生活」を見据えた指標だからです。外出着や一般的な室内着を着る能力を評価するため、病衣を自力で着ていても、「社会的な更衣」ができているとはみなされません。

したがって、評価期間中に病衣しか着ていない患者様は、動作の自立度に関わらず「1点」となります。自立度を正しく評価するには、普段からボタン付きのシャツやTシャツを着用していただく環境設定が不可欠です。

2. 更衣(上衣)を構成する4つの動作

適切な衣類を着用している前提で、介助率を以下の4工程(各25%)で算出します。

  1. 袖を通す(右):右腕を袖に通す動作。
  2. 袖を通す(左):左腕を袖に通す動作。
  3. 頭を通す / 前を合わせる:被り物なら頭を通す、前開きなら肩に掛けて前を合わせる。
  4. 裾を整える / 留め具の操作:裾を下ろす、ボタンやファスナーを留める。

3. 採点基準の早見表(6点〜5点の境界線)

病衣から「普通の服」へ切り替えた後、迷いやすいのが5点(準備)と6点(修正自立)の判断です。

状況点数判定の根拠
自助具やマジックテープ改造6点道具や工夫があれば一人で完結できる(時間はかかってもOK)。
物品の準備(衣類を広げる等)5点前後を判別して渡す、袖を広げて持つなどの手伝いが必要。
見守り・声掛け(手順の促し)5点身体接触はないが、安全確認や「次はボタンです」等の指示が必要。
最小介助(接触あり)4点バランスを支える、あるいは一箇所のボタンだけ留める(75%以上自力)。
病衣・寝間着(和式)を着用1点衣類そのものが評価対象外のため、動作に関わらず全介助扱い。

4. 臨床的観察ポイント

「ボタン」という高い壁

「袖は通せるがボタンだけ全介助」の場合、4つの工程のうち1つ(25%)が介助となるため、残りの75%は自力とみなされ「4点」となります。しかし、病棟で看護師が「面倒だから」と全部着せ替えてしまっている場合は、実態を優先して1点や2点になる可能性があるため、病棟での「している活動」の確認が必須です。

準備(5点)と自立の分かれ目

「介助者が衣類をベッドの上に置いておけば一人で着られる」という状態は、実は5点(準備)です。自立(7点)とするには、自分でタンスやロッカーから衣類を取り出す「準備の動作」は含まれませんが、少なくとも自分の身近にある衣類を自ら手に取り、前後を判別して着替え始める必要があります。

5. チームアプローチ提案:1点(病衣)からの脱却

リハビリテーション専門職として、患者さんのADL能力向上を図るための具体的なアプローチです。

  • ご家族への協力依頼: 「退院を見据えて、普段着に近い前開きのシャツやTシャツを持ってきてください」と説明します。
  • 病棟看護師への共有: 「リハビリの時間だけでなく、朝の更衣もこの服で練習しましょう」と提案し、病棟での「している活動」を病衣から普通の服へシフトさせます。
  • 自助具の選定: ボタンが壁になっているなら、ボタンエイドの導入や、マジックテープへの付け替えを提案し、6点(修正自立)への引き上げを図ります。

6. まとめ

FIMの更衣(上衣)評価は、まず「評価対象の衣類を着ているか」というスタートラインに立っているかを確認することから始まります。病衣や寝間着を「楽だから」と使い続けている限り、患者様のADLスコアは1点から動きません。

正しいルールを理解し、環境(衣類)を整えること。そして4つの動作工程を分析すること。このステップを踏むことで、現場の評価はより正確になり、患者様の「本当の自立」を引き出すことができるようになります。