リハビリテーションの現場において、FIM(機能的自立度評価)の「清拭」は、入浴場面やベッド上での更拭など、日常的に評価の機会が多い項目です。しかし、「背中は含まない」「10箇所の部位をどうカウントするか」といった独自のルールがあり、正確な採点には慣れが必要です。
特に、麻痺がある患者様が片手で洗っている場合や、スタッフがタオルを絞って渡している場合の点数はどうなるのか、といった疑問は多くのセラピストが抱く共通の悩みです。
今回は、FIMの清拭項目の評価ルールと、臨床現場での具体的な判断基準を詳しく解説します。
Contents
1. 清拭評価の対象となる「10箇所の部位」
FIMの清拭では、以下の10箇所の部位について、「洗う」「すすぐ」「拭く(乾かす)」動作を評価します。
- 胸部
- 右上肢
- 左上肢
- 腹部
- 右大腿部
- 左大腿部
- 右下腿部
- 左下腿部
- 陰部
- 殿部
重要な除外ポイント:背中は含まない
FIMの清拭において、「背中」および「首から上(顔など)」は評価対象に含まれません。 背中をスタッフが洗っていても、上記の10箇所が自力でできていれば、自立と判断されます。これは、背中の洗浄が多くの人にとって身体的に難易度が高い動作であることを考慮したルールです。
2. 6点(修正自立)と5点(準備・監視)の境界線
清拭項目で最も迷いやすいのが、道具の使用や準備に関する判定です。
| 状況 | 判定 | 理由・条件 |
|---|---|---|
| 自助具の使用 | 6点 | 長柄付きのスポンジや、滑り止めマットなどを使用して自力で完結している場合。 |
| 安全性の配慮 | 6点 | 転倒のリスクがあり、通常より時間がかかるが、一人で安全に行える場合。 |
| 物品の準備 | 5点 | お湯を張る、ボディソープをつける、タオルを絞って渡す、といった準備を他者が行う場合。 |
| 見守り・声掛け | 5点 | 洗い残しがないか確認する、バランスを崩さないよう傍で見守る(接触なし)。 |
| 最小介助(接触) | 4点 | バランスを保つために軽く支える、あるいは一部の部位(1〜2箇所)を手伝う。 |
「タオルを絞る」行為の解釈
FIMのルールでは、これは「準備」の介助にあたります。動作自体が自力であっても、タオルを絞るという前段階の準備をスタッフが行えば、その時点で最高点は5点となります。
3. 介助率の計算方法:10箇所をどう数えるか
清拭は「10箇所の部位のうち、いくつ自力でできているか」をパーセンテージで算出します。
- 1箇所あたり10% として計算します。
- 75%以上(8〜10箇所): 4点(最小介助)
- 50%〜74%(5〜7箇所): 3点(中等度介助)
- 25%〜49%(3〜4箇所): 2点(最大介助)
- 25%未満(0〜2箇所): 1点(全介助)
臨床的な計算の例
例えば、片麻痺の患者様が、非麻痺側の手を使って、非麻痺側の上肢、殿部が洗えず、合計で8箇所しか自力でできていない場合、実施率は80%となり、4点(最小介助)と判定されます。
4. 臨床的観察ポイント
評価を正確に行うために、以下の視点を意識しましょう。
「洗う」「すすぐ」「拭く」動作のすべてを見る
FIMは「洗う」だけでなく「すすぐ」「拭く(乾かす)」動作も評価に含みます。洗うのは自力でできても、体の水分を十分に拭き取ることができず、スタッフが仕上げをしている場合は、その部位は「介助」としてカウントされます。
陰部清拭の評価
清拭における陰部の評価は、「入浴・シャワー浴の場面での洗浄」を指します。排泄後の清拭とは別の評価軸であることに注意してください。また、尿道カテーテルが挿入されている場合の洗浄介助も、この項目に含まれます。
姿勢による変化
「椅子に座れば足まで手が届くが、立位ではバランスが悪く洗えない」といったケースがあります。FIMは「しているADL」を評価するため、実生活で立位での清拭を行っており、そこで介助が必要であれば、その状態を点数に反映させます。
5. チームアプローチ:清拭を自立に導く工夫
清拭の自立度向上は、清潔保持だけでなく、入浴の自立や皮膚トラブルの予防にも直結します。
- 看護・介護職への伝達: 「背中は評価に含まれないので、背中だけ手伝っても10箇所自力なら5点(準備)や7点(自立)を目指せます」という正確なルールを共有します。これにより、過剰な介助を防ぎ、患者様の自立を促せます。
- 自助具の選定: 足元まで手が届かない場合は、長柄付きのブラシやスポンジを導入し、6点(修正自立)への引き上げを検討します。
- 環境設定: シャワーチェアの高さ調整や、手すりの位置を確認することで、座位バランスを安定させ、自力で洗える範囲を広げます。
6. まとめ
清拭の評価は、「10箇所の部位」をパズルのように数えていくことで、主観に頼らない客観的な採点が可能になります。
「背中は数えない」「タオルを絞れば5点」といった具体的なルールをマスターすることで、多職種間での評価のズレを解消し、より精度の高いリハビリ計画を立てることができます。明日からのケア場面では、ぜひこの10箇所のチェックリストを思い浮かべながら、患者様の動作を観察してみてください。

